札幌をベースにしたバックカントリー
- AREA 札幌エリア
手つかずの大自然の中を自由に滑るバックカントリーは、雪山と滑ることが大好きな人ならば、一度足を踏み入れたらきっと夢中になってしまう魅惑のフィールド。広大な北海道には数えきれないほどのバックカントリーフィールドがあり、アクセスもしやすいことで有名です。極上の北海道パウダーをもっと欲張りに滑るために、バックカントリーに入るというチョイスもあるでしょう。そこで、その魅力とともに札幌をベースにして楽しむバックカントリーフィールドの一例を紹介しましょう。
札幌周辺のバックカントリーの魅力
自然が創り出した地形がもたらす変化に富んだ斜面が無限に広がっているのがバックカントリー。広大な北海道の山岳地帯は高緯度にあるため森林限界が低く、積雪量が多くて積雪期が長いのが特徴です。標高1,000mちょっとの低山でも、5月までたっぷりと雪が残り、バックカントリーも長く楽しむことができます。森林限界を超えたオープンバーンもあれば、樹林帯の中のツリーエリア、息を呑むような急斜面など、ありとあらゆる斜面があります。
札幌近郊にはバックカントリー滑走に向いているこぶりな山が車で約1時間圏内に30峰くらいと、とてもたくさんあります。このことが意外と知られていないせいか、山の中にバックカントリーギアで入って来る人はとても少ない。1日山にいて誰にも会わない、なんて山がたくさんあるのです。ゆったりと1日中パウダーを独り占めできる幸運に恵まれるチャンスもあり、混雑が苦手な海外からのゲストたちのなかには、札幌周辺のバックカントリーをお目当てに北海道にやって来る人も少なくありません。
札幌周辺には数多くのアクセス可能な山が点在しているため、札幌にステイして、その日の天候や雪の状態、風向きなどコンディションによって行先をフレキシブルに選択することができます。それは札幌ベースならではの利点でしょう。
札幌周辺のスキー場からアクセスできるバックカントリー
札幌周辺には、スキー場のリフト降り場からバックカントリーへすぐに入れる便利な山もあります。スキー場までシャトルバスが利用できて手軽なこと、エントリー時のハイク時間が短縮されることで時間が有効に使え、滑る時間がより多く確保できるというメリットは大きい。「バックカントリーでパウダーは滑りたいけれど、ハイクは嫌だ、苦手」という人にとっては、それほど嬉しいことはありません。
例えば余市岳の麓にあるキロロリゾート。札幌から車で約1時間と十分に日帰りが可能ながら、多いときには約5mを超える積雪があり、安定的に気温が低いため、ドライなパウダーが保たれるという強みがあります。リゾートのゴンドラトップからハイクアップすれば余市岳(標高1,488m)にアプローチすることができ、幻想的で美しいバックカントリーフィールドを楽しむことができます。余市岳は北海道でも有数といえる標高差400m以上の巨大な一枚バーンがあることでも有名です。
このようなダイナミックな斜面を、北斜面・南斜面と繰り返し登って2~4本くらい気持ちのいいバックカントリーならではのパウダーライドが楽しめます。それだけの標高差のある長い斜面はバックカントリーといえども滑れるところはそうはないので、とても魅力的です。ビッグスケールのバックカントリーに慣れている海外ゲストでも、ここなら大満足でしょう。
そしてスキー場アクセスと言えば、札幌から一番近いのは札幌国際スキー場です。スキー場のゴンドラを使って、ゴンドラトップからBCエリアに入り、目指すは朝里岳や白井岳です。実際はどのような様子なのでしょうか。バックカントリーガイドの照井大地さんに朝里岳へのツアーを紹介してもらいましょう。
Sapporo Powder ski touring to Mt.ASARI
Report by Daichi Terui
世界最高水準の降雪と雪質を誇る札幌の山々。数々の魅力的な山のなかでも古くは大正時代から山スキーが行われていたという北海道のクラシックスキーツアーの一つ、朝里岳へのバックカントリースキー・スノーボードの1Dayツアーを紹介します。
朝里岳は札幌市・小樽市・赤井川村の境界にまたがる標高1280mの山。札幌国際スキー場からバックカントリーへ入り、朝里岳山頂を目指すツアールートは、高度差は200m弱、選択する斜面にもよりますが、バックカントリーに慣れてきた中級者向けのコースとして知られています。
札幌から朝里岳BCへ
朝の7時に札幌市中心部を出発すると、おおよそ90分、08:30頃に札幌国際スキー場に到着します。ここが山へのエントランスです。当日の天気や雪の状況を確認してからゴンドラに乗り、札幌国際スキー場のトップまでアプローチ。
標高1,100mの山頂駅より1分ほど歩いてから、スキー・スノーボードを履いて山へ向かう準備をする広場までほんの少し滑ります。そこでスキーやスプリットボードにはシールを貼り、スノーボードならスノーシューを履いて、雪崩トランシーバーの動作チェックを行ってから、朝里岳の斜面へ向かいます。前方に見えている朝里岳へと続く尾根を登ると、小樽湾や石狩湾の日本海が視界に広がってきて、白井岳の山頂も見えてきます。視界が広がってきた所で山頂へは行かずにスキーヤーズレフトへトラバースして行きます。
朝里岳の山頂部は平坦で広々とした雪原が広がっています。晴れた日には眼下に日本海。そして周囲の余市岳や白井岳。運が良ければ十勝連峰を望むことができます。北海道を見渡せる名峰です。ただし、風雪を伴う悪天時にはホワイトアウトでの道迷いの危険もあります。そのような場合は引き返す心のゆとりはもちろん、標高を落として樹林帯での行動をとるなど、常に自分の位置を把握しながら余裕を持った計画が必要になってきます。自身のスキルレベルに合った行動を心がけましょう。
滑る斜面にもよりますが、札幌国際スキー場のトップから緩やかな傾斜の疎林の中をおおよそ1時間程度登っていくと、最初の広い斜面に行くことができます。途中、水分補給や栄養補給も忘れないでください。
深く滑らかなパウダーで無重力を楽しむ
頑張って登ってお目当てのスポットに到着、シールやスノーシューを外して滑走の準備をします。曇っていても時折見える太陽の温かさや、寒くても美しい雪の結晶を楽しめるひと時でもあります。
そして、フレッシュパウダーをかぶった北斜面に飛び込めば、深く滑らかな雪が無重力、サーフライクなマニューバで包んでくれます。斜面方向も当日のコンディションに合わせて北・東・南などと変えることができます。斜度が30度前後くらいの斜面はドライなパウダーが巻き上がり気分も上がります。垂直距離で200~300mくらいの滑走距離です。
この斜面を繰り返しハイクして、何本か気持ちよく楽しんだ後はシールを準備して、次の斜面へ。斜面の方角を変えると違った風景と地形、雪質に出会えますから、また歩きます。白井岳方面へ登り返す場合は時間的余裕をしっかりと持ちましょう。
稜線からの美しいツリーラン
次の斜面への登りは1時間から1時間半ほどかかります。白井岳山頂方面の北向き斜面へは、朝里岳沢川より標高差450m!登るのは大変!ですが、太古から成長してきた巨木を眺めて感動したり、北海道の可愛い雪ウサギに遭遇したりする楽しみもあります。
登り返して稜線に近づいてきました。眼下には日本海、横を見ると羊蹄山が見えます。そして斜面は美しい樹林の中に滑り込めるライン。海外ゲストには特に大人気のツリーランです。そこで注意! ツリーランでは木を見てしまうと木にぶつかってしまいます。木と木の間のスペースをしっかり見て滑りましょう。
滑っていくとどんどん周りの樹木は大きくなり、雪に埋もれた沢(ガリー)を滑っていきます。20~30分ほど天然のパークのようになった白井岳の沢から朝里岳沢川を滑っていくと再び札幌国際スキー場へ戻ることができました。
ここまでで約5時間程度のバックカントリーツアーです。合計のハイク時間は3~3.5時間といったところ。3時間程度のハイクが苦でなくできて、30度前後の斜度のパウダースノーを問題なく滑ってこられる中級者からのルートかと思います。
朝里岳バックカントリーの特徴と魅力
札幌国際スキー場から朝里岳へは、おおよそ標高差300m程度、斜面方向は北、南東などいろいろな斜面を選べるので、その日のコンディションに合わせた滑走プランを組むことができます。なかでも北斜面は日射の影響を受けにくいので雪質が良いことが多いですが、ここは沢地形なので、どの斜面も風の影響を受けにくく、比較的良いコンディションが期待できるのがこのエリアの特徴であり、魅力のポイントです。
Daichi Terui
・JMGA山岳ガイドステージⅠ
・JMGAスキーガイドステージⅡ
https://teruidaichi.com
terry19900515@gmail.com
最後に
バックカントリーにはたくさんの魅力とともに危険もあるため、しっかりとした装備、山でのマナーやリスクに関する知識、万が一の際の救助方法や保険、自身の健康管理など含めて、入念な準備が必要です。
特に海外ゲストが北海道でバックカントリーへ出るときは、必ず土地に詳しい地元のガイドに引率してもらいましょう。北海道には外国語対応ができるBCガイドやガイドクラブも複数あるため、必ず利用することをお勧めします。加えて、天候不順により雪崩の発生が高まりやすいことから、その日の天候やコンディション等の情報を地元スキー場の事業者より確実に得た上で、滑走の判断をしてください。